• コラム
手で書くこと(明窓浄几 筆硯紙墨)

あなたにとって手で書くこととは何でしょう。

中国の詩人、蘇舜欽の言葉に「明窓浄几 筆硯紙墨(めいそうじょうき ひっけんしぼく)」というものがあります。明るい窓のある部屋のきれいな机で、紙に向かって何かを書くことは人生の楽しみ足り得る、というような意味です。おだやかな光に包まれた情景が思い浮かぶようで、ゆったりした豊かな時間の流れを感じます。ていねいな暮らしのシーンには、PCよりもペンとノートがよく似合う。リラックスして音楽を聴くように、活けた草花を愛でるように、紙に書くことで満たされる……すこし大袈裟ですが、しあわせのヒントは「手で書くこと」にあるのかもしれません。それが創作や表現をする手段となって、こころを解放してくれたり、悦びや発見、ときに癒しを与えてくれるのではないでしょうか。

スマホやPC、昨今ではAIの普及によって、文字を紡ぐことが「手」から離れてしまったようです。それでもなお、自分の気持ちを伝えたり、創作や表現をしたりする手段として、紙に手で書くことでしか成立しえないものが存在します。しばしば「身体性」とか「フィジカル」などと表現されますね。なぐり書きやヘタウマ、インクの滲みや掠れ、伸びやかな筆跡、線の逡巡、黒く塗り潰された修正、すべて“味” です。自由と刺激に満ちた手書き文字はその人自身、とてもチャーミングだと思います。もちろん、紙という素材の肌理(きめ)、何も書かれていない行間や余白も。メールやLINEと違って、紙に書かれた文字は(郵便ポストに投函でもしない限り)定着されたままどこにも飛び立たず、ローカルでパーソナル。とってもスロー。

人が紙に何かを書いている姿も美しい。あなたの毎日をスケッチするように。
Write the world!